サードミレニアムゲートの外観写真

サードミレニアムゲート 竹山聖+アモルフ 松本の建築

設計者は竹山聖が率いる設計組織アモルフである。竹山は『OXY乃木坂』『強羅花壇』『TERRAZZA』『大阪府立北野高等学校六稜会館』『新宿瑠璃光院・白蓮華堂』などの力強い造形で知られる建築家であり、京都大学で教鞭をとったことでも有名な、日本を代表する建築家である。『サードミレニアムゲート』はコンクリート聳え立つ壁が印象的な建築でであり、2001年に竣工している。

解説

サードミレニアムゲートの建築概要コンクリートの壁の隙間の領域

この建築についての文献は数行しか見当たらなかったため、自分なりに簡単な解説を付けてゆきたい。

壁の隙間の領域は他者に感応する

訪れる他者 ─光、風、雨、雪、音、香り、風景、人─ に感応する建築。イオン化傾向の高い空間を持った建築。

竹山聖
『ART BOX JAPAN architecture vol.1』所収

まず、竹山は都市に対して印象的な壁を建てる。巨大な壁は内と外を暴力的に区切ることで、一つの領域を形成する。壁で区切られた領域に対して、光や風や、風景や人などが次々と通りに抜けてゆくように、亀裂や孔が開けられている。壁そのものも、一枚の象徴的な壁ではなく、二枚の壁の組み合わせで成立しているから、完全無欠な壁というより未完結な壁といえる。この未完結の壁を中心に様々な関係が生まれてゆくのである。

また、壁は、壁の向こう側の賑わいを隠すことによって、壁の向こう側を意識させる。普段だと気がつかない向こう側の景色を暴力的に意識さることで、向こう側に期待や憧れが抱くことを可能にする。要するに、壁の隙間の領域は、その壁によって日々刻々と新しい様相を呈するのであり、その壁によって様々な物語を紡ぎ出し、それでいて、その壁が様相や物語を保証するのである。

二枚の壁が重合する
二枚の壁が重合する @Architecture Museum壁は、隙間を持って並べられていて互いに独立している。この壁の隙間に光や風が入るし、内側から見ると、この隙間が空を縦長に切り取っている。

壁の隙間の領域に散りばめられた要素

壁の隙間の領域には、様々は要素が散りばめられている。階段、塔、ブリッジ、トップライトなど。これらの要素が時間や空間を現在に結びつけている。階段は、上下の場所を結びつけてドラマを発生させる。塔は、天と地を結びつけて交信をうながす。ブリッジは、建物側と川を結びつけて宙吊りになる。こうした要素が絡み合うことによって、壁の隙間の領域は日々刻々と変様してゆき、想像力を喚起させる自由さを持つ。

ブリッジが浮かんでいる
ブリッジが浮かんでいる @Architecture Museum壁の隙間の領域には、様々な要素が散りばめられ、幾つものドラマが生まれることが意図されている。とりわけブリッジは印象的で、川に向かって飛び出しているのが分かる。

屋上のパブリックスペース

竹山の建築は、一般の利用者のために都市にパブリックな場所を導入するという特徴がある。この建築の場合、壁の隙間の領域は誰でも入れるのだが、それだけではなく、一般の利用者が屋上までズルズルと登れることも重要である。普通の建築の場合、屋上は封鎖されて眺めが開放されることはないのだが、この建築では、勇気を出して屋上に登ると居心地のよい場所が用意されている。屋上の場所はとても空に近く、階段を登ったものだけが独占できる空は印象的である。ぼんやり空でも眺めてみよう、そうすると、都市の喧騒を忘れて自分を見つめ直すことができる。

屋上の空間
屋上の空間 @Architecture Museum屋上には多くのオリーブが植えられ、赤いテントが置かれていた。誰からも放置されたような空間は居心地がよく、ぼんやりと空を眺めるのに適していた。
感想

サードミレニアムゲートを訪れた感想空を切り取る

この建築を訪れて感じた印象は、壁が軽いのか重いのか分からないという印象である。川沿いから見ると、どっしりと重い壁が都市を切断しているのにもかかわらず、交差点の方から見ると、それは薄っぺらい壁に過ぎない。重くもあり軽くもあるという両義性が、それを独立して存在させている。つまり、壁が壁として存在しているだけだということで、壁は壁以上の何者でもない。また同様に、交差点から見た屋上の床部分も、壁と切り離して設計されているから、床は床以上の何者でもない。

それだけではなく、エレベータの入った塔も塔以上の何者でもなく、階段も階段以上の何者でもなく、ブリッジもブリッジ以上の何者でもない。こうした独立した要素が集合して、偶然に一つの場を形成している。これを言説や理論として主張するのは簡単だが、実際に建築として実践するのは難しく、どこかの要素が他の要素を呑み込んでしまうことが殆どである。しかしながら、この建築はとてもバランスがよい。バランスよくすべての要素が独立して、そして絶妙に調和している。

このバランス感は、ボリュームの角が削られていることや、コンクリートの床や壁が徐々に薄くなることや、色や素材の工夫がされていること、など様々な細かい配慮が総合して生み出す効果だと考えられる。一見すると暴力的に見える形態に見えるのだが、細部に着目するならば、驚くべき細やかな配慮がなされていることが分かる。こうした小さな積み重ねにょつて、バランス感が保たれていることを見逃してはならない。最後に、感触としての言葉を添えておこう。

空に洋服を纏わせる建築― すぐ隣にある空がとても遠く感じる時

どっしりと構えたコンクリートの壁が川沿いに建っているから、まるで城壁の外側に追い出されたようである。左側のひしゃげた壁は垂直の壁よりも優しく感じるのはなぜだろうか。壁に沿って正面までゆくと、壁に囲まれた不思議な空間が広がっていて、誰もが入れる自由な空間になっている。交通量の多い前面道路の流れ、側面を流れる女鳥羽川の流れ、こうした流れのなかに佇む空間に立っていると、川のほとりにでもいるような気分になる。壁の隙間に生まれた空間は、どこにも所属していない放置された空間であり、何もなく、何もないがゆえに心地よい。

壁のなかには、様々な要素が点在していてるのだが、とりわけ壁の亀裂が美しい。狭く細い壁の亀裂に青空が切り取られた結果、青空がスラリと立って見える。青空が立つ、この印象は不思議なものである。空というのは上空にあると思っていたのだが、そうではなくて、すぐ隣で息をしていて、ピンヒールを履いた女性のように優雅に立っているのだ。ひしゃげた壁の角度が腰のくびれのように見えて、これまた育ちのよい女性の美しい姿勢を想起させる。この建築の壁は空に洋服を纏わせている、と感じた。

空に洋服を纏わせる建築。これは、空をフレーミングして切り取ることとは違う。空をフレーミングして切り取るのは建築家の常套手段かもしれないが、そんなことはジェームズ・タレルにでも任せておけばよい。空をフレーミングする手法は、空を額縁のなかに暴力的に押しこんで美術館の作品のように仕立て上げる。作品化された空は安全な場所から鑑賞されるのだが、空の手触りや質感は漂白されしまっているから、遠くの客体としてしか感じられない。空は遠くて白い。しかしながら、この建築の場合、空を虫籠のような窮屈な場所に閉じこめるのではなく、空に優しく服を纏わせただけである。コンクリートの美しい壁を、空にそうっと纏わせているだけに過ぎないから、空は作品化されていない。空はすぐ隣で息をしていて、今にでも触れそうなのである。空は近くて青い。

コンクリート壁という羽衣を纏った空は、美しい空の青みをその内側に秘めるから、空の青さに無意味に泣きたくなってしまう。空が近くにあるからこそ、自分はあの空に届かないのだと心の底から感じてしまう。空は近い、だからこそ遠くにある。すぐ隣にいるからこそ、とても遠くに感じられる。掴めそうで掴めないグラディーヴァの裾のように、空はふわりと逃げてゆく。それは、美術館の作品に手を触れてはいけないという押しつけられた遠さではなく、手で触れると壊れてしまうから触ってはいけないというような、繊細で優しい、近いからこその遠さである。大切なものだから触れられない、と優しい気持ちのなかで心の底から感じる遠さが愛おしい。空が洋服を纏ったとき、空は逃げてゆく。空を追いかけなくてはならない。

季山時代
2022.12.10

写真

サードミレニアムゲートの建築写真

写真を撮りました。サイトへのリンクを貼っていただければ、常識の範囲内に限って、無許可にて使用して構いません。なお、この写真を使用することで発生したいかなる損害に対しても、一切の責任を負いかねますので、あらかじめご了承ください。

サードミレニアムゲートの建築の外観
サードミレニアムゲートの外観 @Architecture Museum
建築の薄く走る屋上スラブ
薄く走る屋上スラブ @Architecture Museum
印象的なコンクリート壁
印象的なコンクリート壁 @Architecture Museum
コンクリート壁の亀裂
コンクリート壁の亀裂 @Architecture Museum
開口から覗くトップライト
開口から覗くトップライト @Architecture Museum
長く突き出した階段
長く突き出した階段 @Architecture Museum
様々な要素が交錯する
様々な要素が交錯する @Architecture Museum
宙吊りにされたブリッジ
宙吊りにされたブリッジ @Architecture Museum
屋上に向かうための穴
屋上に向かうための穴 @Architecture Museum
コンクリートの隙間の空間
コンクリートの隙間の空間 @Architecture Museum
建築裏側のテナント
裏側のテナント @Architecture Museum
薄さが目立つ建築の壁
薄さが目立つ壁 @Architecture Museum
コンクリート壁を女鳥羽川から見る
女鳥羽川から見る @Architecture Museum
入口の要素の戯れ
入口の要素の戯れ @Architecture Museum
明るい屋上の空間
明るい屋上の空間 @Architecture Museum
建築の全体像
建築の全体像 @Architecture Museum
屋上からの眺め
屋上からの眺め @Architecture Museum
階段を見上げる
階段を見上げる @Architecture Museum
附記