神田Mビルの外観写真

神田Mビル 伊東豊雄 神田の建築

設計者は伊東豊雄。伊東は『せんだいメディアテーク』『台中国家歌劇院』『まつもと市民芸術館』『TOD’S表参道ビル』『ぎふメディアコスモス』などの作品で知られる世界の第一線で活躍する建築家である。『神田Mビル』は、1987年に竣工した初期の伊東作品であり、三角のファサードと、最上階に載せられたドームが特徴の建築である。

解説

神田Mビルの建築概要敷地を覆う三角形状のファサード

三角形状のファサード

打放しコンリートのフレームがやや骨太に露出しているので、ここしばらくの間、われわれがつくってきた鉄骨造のファサードとはやや異なる表情を示しているが、即物的な半透明のスクリーンをつくりたいという主旨はまったく変わっていない。

伊東豊雄『新建築 1987年10月号』(強調筆者)

この建築は、建蔽率や容積率を満たす最大のボリュームを建てたもので、最上階にクライアントのオフィスが入っている。特徴は何といっても、三角形状に刻まれたコンクリートのファサードであり、アルミパネルが嵌めこまれて、所々にエクスパンドメタルのスクリーンが貼られている。この時期の伊東の建築にしては特例的に骨太であり、角地に面するガラス部分は希薄な皮膜のように見えるものの、そうでない部分はかなり強い影が落ちていて、コンクリートの重々しさを主張しているが、伊東の狙いはあくまでも即物的な半透明のスクリーンを設計するということである。

ちなみに、スラブは35mmのヴォイドスラブであり、梁がないことも表現としてのこだわられている。この建築は、伊東事務所に所属していた妹島和世が担当しているのだが、彼女はインタビューにおいてこう答えている。「『神田Mビル』の設計時は、天井裏に隠れている梁を見付けられて、『そんな梁があるのはおかしい。理論上合っていない』と指摘された」と(NA建築家シリーズ-伊東豊雄)。要するに、ファサードが構造を支えるという理論の一貫性も重要なのであり、その理論から逸脱するものは、たとえ見えなくても存在してはならない。

神田Mビルのスクリーン
神田Mビルのスクリーン @Architecture Museum角地に面する部分のスクリーンはかなり薄くて軽い印象を受ける。ただし、問題はガラスやアルミパネルが入っていない部分である。ガラスが内側に仕舞い込まれたためだろう、黒い影が落ちてしまい、スクリーンではない重さが出てしまっていて、伊東の意図しなかったものだと思われる。この反省が『TOD'S表参道ビル』の平面性への執着につながったのだろう。

上部に載せられたドーム部分

最上階を覆う不定形のドームも、身体を軽く覆う柔らかな皮膜という従来のテーマに添って考えられたものである。鉄骨で三角形のトラスを結び合わされて構成され、その下に一部、中2階を含む小さなペントハウスのオフィスがつくられている。

伊東豊雄『新建築 1987年10月号』(強調筆者)

この建築は最上階にドームが設計されている。この建築が竣工したのが1987年であり、1984年に『シルバーハット』、1985年に『東京遊牧少女の包』という時系列を考えると、身体を覆う皮膜の覆いのようなものが引き継がれていて、ビルの最上階にふわりと載せられたドームに表現されている。雑誌で確認すると、最上階のドームには三角形のトップライトが開けられていて、色とりどりの光を落としているうえ、布によるパーテーションで仕切られていて、とても軽い皮膜のような空間ができている。ビルにふわりと屋根をかけるという在り方はなかなか斬新であると同時に、『座・高円寺』の不思議な軽い屋根を感じさせる。

神田Mビルの不定形のドーム
神田Mビルの不定形のドーム @Architecture Museumふわりと架けられた屋根がビルのうえに載せられている。ファサードの三角形を引き継いで、三角形のトラスで構成されていることが伊東らしい。
感想

神田Mビルを訪れた感想コンクリートフレームの重さ

この建築を訪れて感じたのは、やはりコンクリートフレームの重々しさである。この建築が竣工したのが1987年であり、1984年に『シルバーハット』、1985年に『東京遊牧少女の包』、1986年に『横浜風の塔』と考えると、この建築は明らかに重すぎる。多分、伊東は新しい表現を模索していて、コンクリートで皮膜をつくることに挑戦したのだろう。しかしながら、やはり重く、とりわけガラスが嵌めこまれていない場所に影が落ちてしまい、重苦しいと感じられる。

とはいえ、ファサードが構造になっているという点において、2004年の『TOD'S表参道ビル』を予感させている。多分、この重々しさの反省から、『TOD'S表参道ビル』では内外にガラスが嵌め込まれ、平面的で一枚のファサードに見えるように工夫されたのだろう。さて、『神田Mビル』は伊東の建築にしては重苦しいが、篠原一男を彷彿とさせるコンクリートのフレーム、そしてその角地に鋭角に立つ強さみたいなものは、魅力的である。ちなみに、『神田Mビル』は妹島和世が担当したというから『芝浦のオフィス』のブレースにつながったという見方をするのも楽しいだろう。最後に簡単なメモ。

鋭角な敷地の建築

神田Mビルに訪れて驚いたのは、その敷地の鋭角さである。敷地が鋭角であること、それと三角のフレームが使われていることが絶妙に調和しているような印象を受けた。そういえば、篠原一男の『日本浮世絵博物館』ではファサードが直角よりも広く曲げられていたが、伊東豊雄の『神田Mビル』は直角よりも狭い。この角度の狭さが、建築をすっと縦に伸ばす効果を持っていて、だらけた印象を払拭しているように感じた。鋭角な敷地の建築について考えるのも面白いかもしれない。ところで、すっとのびた垂直性にドームが載っているっている建築といえば、ビザンチン建築が想起される。近くに『ニコライ堂』があるからだろうか、架けられたドームがビザンチン様式のにペンデンティブドームのように見えて驚く。もし機会があれば、ドームのなかを見てみたいものである、と蕎麦をすすりながら考える。

季山時代
2023.04.30

写真

神田Mビルの建築写真

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神田Mビルの建築の外観
神田Mビルの外観 @Architecture Museum
三角形状の建築のファサード
三角形状のファサード @Architecture Museum
フレームに載せられたドーム
フレームに載せられたドーム @Architecture Museum
影が落ちる入口
影が落ちる入口 @Architecture Museum
アルミパネルが嵌めこまれる
アルミパネルが嵌めこまれる @Architecture Museum
アナーキーなファサード
アナーキーなファサード @Architecture Museum
内部の黄色い階段が見える
内部の黄色い階段が見える @Architecture Museum
骨太のコンクリートフレーム
骨太のコンクリートフレーム @Architecture Museum
リズミカルなファサード
リズミカルなファサード @Architecture Museum
ガラス部分は軽く見える
ガラス部分は軽く見える @Architecture Museum
建築の全体像
建築の全体像 @Architecture Museum
側面から見る
側面から見る @Architecture Museum
附記